マッチング試験をガチった私の総論
病院選び・見学・筆記・面接、そして結局は少しの運
医学生にとって、初期研修先を決める臨床研修マッチングは、国家試験とはまた違った意味で大きなイベントです。
私はマッチングに、かなり本気で取り組みました。
病院の情報を集め、複数の病院を見学し、履歴書を何度も修正し、筆記試験や小論文を対策し、面接で聞かれそうな質問への回答も考えました。
周囲から見たら、
「そこまでやる?」
と思われるくらい、マッチングに時間と労力を使っていたかもしれません。
結果として、私は倍率の高い市中病院にマッチすることができました。
ただ、マッチングを終えた今になって思うのは、
努力すれば、必ず第一志望に受かるわけではない。
でも、努力しなければ、せっかく来たチャンスをつかめないこともある。
ということです。
マッチングには、自分の努力で変えられる部分があります。一方で、面接官との相性や受験者層など、どうしても運に左右される部分もあります。
この記事では、マッチングをかなり真剣に受けた私が、病院選び、病院見学、筆記・小論文、面接、スケジュール管理、メンタル面について、終わった今だから思うことをまとめます。
1.病院選びは「有名か」より「自分が2年間働けるか」
マッチングを始めたばかりの頃は、どうしても病院の知名度や倍率が気になりました。
- 有名な病院
- 救急が強い病院
- 症例数が多い病院
- 教育熱心と評判の病院
- 給料や立地が良い病院
調べれば調べるほど、魅力的な病院が増えていきます。
そして、人気病院の名前を見ていると、
「せっかくなら、少しでも有名な病院に行きたい」
という気持ちも出てきます。
これは別に悪いことではありません。
ただ、最終的に大切なのは、その病院が有名かどうかではなく、
自分がそこで2年間働いている姿を想像できるか
だと思います。
私が病院を比較するときに見ていたのは、主に次のような点です。
- 救急をどの程度経験できるか
- 研修医が主体的に診療できるか
- 上級医に相談しやすいか
- 手技の機会があるか
- 興味のある診療科を十分に回れるか
- 研修医の人数が多すぎないか、少なすぎないか
- 当直回数と当直明けの勤務体制
- 給与、住宅、通勤などの生活条件
- 研修医同士や上級医との雰囲気
正直、病院のホームページには、だいたい良いことしか書いてありません。
「豊富な症例」
「充実した指導体制」
「研修医が主体的に活躍」
このあたりは、ほとんどの病院が掲げています。
だからこそ、私は実際に複数の病院を見学しました。
見学前には第一志望候補だった病院が、実際に行くと自分には合わないと感じることもあります。
反対に、何となく候補に入れていた病院が、見学後に一気に魅力的に見えることもあります。
「憧れる病院」と「自分に合う病院」は、必ずしも同じではありません。
2.病院見学は、評価される場であり、こちらが評価する場でもある
病院見学に行くときは、
「失礼なことをしないようにしなければ」
「何か良い質問をしなければ」
「積極性をアピールしなければ」
と緊張する人が多いと思います。
もちろん、挨拶、時間厳守、身だしなみ、メールのやり取りなど、最低限のマナーは大切です。
ただ、見学は病院側が学生を見るだけの時間ではありません。
学生側が病院を評価する時間でもあります。
私は、可能であれば研修医の先生に次のようなことを聞くようにしていました。
- 実際に働いてみて良かったこと
- 入職前とのギャップ
- 忙しいローテーション
- 当直でどの程度自分で判断するか
- 上級医への相談のしやすさ
- 研修医同士の関係
- 休みの取りやすさ
- もう一度マッチングをするなら、この病院を選ぶか
特に参考になったのは、パンフレットに書かれている言葉よりも、実際の研修医の表情や話し方でした。
忙しそうでも楽しそうに働いている病院もあれば、研修医が明らかに疲れ切っているように見える病院もあります。
「研修医同士の仲が良いです」と説明されても、実際にはほとんど会話がないこともあります。
一方で、研修医同士が自然に相談し合い、上級医にも気軽に声をかけている病院は、見学しているだけでも雰囲気が伝わってきます。
病院の空気感は、募集要項には載っていません。
3.見学後は、必ずその日のうちにメモする
病院見学を何か所もすると、正直、後半は情報が混ざります。
「あの病院の当直回数、何回だったっけ?」
「救急で研修医がファーストタッチしていたのはどこだっけ?」
という状態になります。
そのため、見学後は記憶が新しいうちに、以下の内容を記録しておくのがおすすめです。
見学後に残しておきたいメモ
- 良かった点
- 気になった点
- 研修医の雰囲気
- 上級医との距離感
- 当直や救急の体制
- 印象に残った説明や症例
- 面接の志望理由に使えそうな出来事
- 自分がそこで働いている姿を想像できたか
私は、単に「雰囲気が良かった」と書くのではなく、
なぜ良いと感じたのか
まで言葉にしておくことが大切だと思います。
例えば、
研修医が救急外来で自分の考えを上級医に説明し、上級医が否定せずにフィードバックしていた。
というように具体的に残しておけば、後の志望理由や面接でも使えます。
4.病院見学では、無理に目立たなくていい
見学では、鋭い質問をして印象を残さなければいけないと思っている人もいるかもしれません。
しかし私は、無理に目立とうとしなくてもいいと思います。
無理やり作った質問をするよりも、説明をきちんと聞き、本当に疑問に思ったことを聞く方が自然です。
病院側も、一つの質問だけで合否を決めるわけではありません。
それよりも、見られているのは次のような基本的な部分だと思います。
- 時間を守る
- 挨拶をする
- 説明をきちんと聞く
- 見学させてもらったことにお礼を言う
- 職員によって態度を変えない
- 学生同士でも節度を持って行動する
マッチング対策をしていると、つい特別なアピールをしたくなります。
しかし実際には、
「一緒に働いても大丈夫そうな人」と思ってもらうこと
の方が重要なのではないかと思います。
見学後のお礼メールも、長文である必要はありません。
見学への感謝と、印象に残ったことを一つ簡潔に伝えれば十分です。
5.筆記試験対策は、病院によって変える
マッチング試験の筆記内容は、病院によってかなり異なります。
- 国家試験形式の医学問題
- 英語
- 一般常識
- 小論文
- 適性検査
- 病院独自の記述問題
など、出題形式はさまざまです。
すべての病院に対して、完璧な試験対策をするのは現実的ではありません。
だからこそ、まず行うべきなのは、
過去の受験報告や先輩から情報を集めること
です。
医学知識を問う試験であれば、マッチング専用の細かい勉強を増やすより、国家試験対策の基礎を固める方が効率的なこともあります。
一方で、独自問題や英語、小論文の比重が大きい病院なら、その病院に合わせた対策が必要です。
私が大切だと思うのは、すべてを均等に頑張るのではなく、
志望度と配点に応じて、勉強時間を配分すること
です。
第一志望に小論文があるなら、小論文に時間を使う。
医学問題の配点が高いなら、過去問や国試形式の問題を確認する。
英語が出るなら、医学英語や長文問題の形式に慣れる。
マッチング期間は、実習、卒業試験、国家試験対策とも重なります。
何を勉強するかだけでなく、何を捨てるかも重要です。
6.小論文は、文章のうまさより「考え方」が見られる
小論文と聞くと、文章力に自信がない人は不安になると思います。
しかし、珍しい表現や難しい言葉を使う必要はありません。
大切なのは、
- 問われた内容からずれない
- 自分の意見を示す
- 理由を説明する
- 具体例を入れる
- 一方的な主張にしない
ということです。
基本的には、
- 問題提起
- 自分の意見
- 理由や具体例
- 反対意見や課題への言及
- 結論
という流れを意識すると、文章がまとまりやすくなります。
医療系の小論文では、次のようなテーマが考えられます。
- 患者中心の医療
- チーム医療
- 医療安全
- 地域医療
- 高齢化
- 医師の働き方
- 医療資源
- AIと医療
- 医師に求められる資質
ただし、どのテーマでも、きれいごとだけを書けば良いわけではありません。
例えば、
「患者の希望を尊重すべきである」
と書くだけでは、少し浅く見える可能性があります。
患者の希望に加えて、医学的妥当性、家族の意向、安全性、医療資源など、複数の視点から考えることが重要です。
私は、小論文の文章を何本も丸暗記するより、
自分が医療で何を大切にしたいのか
を整理しておく方が、どんなテーマにも対応しやすいと思います。
7.面接対策は必要。でも、回答を丸暗記しすぎない
マッチング面接で聞かれやすい質問は、ある程度決まっています。
頻出質問
- なぜこの病院を志望したのか
- どのような医師になりたいか
- 興味のある診療科
- 学生時代に力を入れたこと
- 自分の長所と短所
- 困難を乗り越えた経験
- 他院の受験状況
- 研修で何を学びたいか
- ストレスへの対処法
- 最近気になった医療ニュース
- チーム内で意見が対立したらどうするか
これらに対して、何も考えずに面接へ行くのはおすすめしません。
面接で緊張すると、普段なら答えられる内容でも言葉が出なくなることがあります。
一方で、回答を一字一句丸暗記するのも危険です。
質問の聞かれ方が少し変わっただけで、暗記した文章が使えなくなり、頭が真っ白になることがあります。
おすすめなのは、
回答全文ではなく、伝えたい要点を3つ程度に整理する方法
です。
例えば、志望理由なら、
- 見学で感じた病院の魅力
- 自分が経験したい研修内容
- 将来像とのつながり
を整理しておきます。
この3つが頭に入っていれば、質問の表現が変わっても、自分の言葉で答えやすくなります。
8.志望理由は「その病院でなければならない理由」を入れる
「救急を学びたいです」
「幅広く診療できる医師になりたいです」
という志望理由は、多くの病院に当てはまります。
もちろん、これらの内容自体が悪いわけではありません。
ただ、面接官が知りたいのは、
なぜ、数ある病院の中から自院を選んだのか
という点です。
そのため、志望理由には、見学で実際に感じたことを入れると具体性が出ます。
例えば、
- 研修医が初診から方針決定まで主体的に関わっていた
- 救急外来で上級医が研修医の判断を尊重しながら指導していた
- 研修医同士が自然に症例相談をしていた
- 自分の関心がある診療科を十分に経験できる
- 地域の中核病院として幅広い患者を受け入れている
- 救急だけでなく、訪問診療や緩和医療も経験できる
などです。
ホームページに書いてある言葉ではなく、見学した自分だから話せる内容を入れる。
これだけでも、志望理由の説得力はかなり変わります。
9.将来の診療科が決まっていなくても大丈夫
マッチングの時点で、将来進みたい診療科が決まっていない人も多いと思います。
私自身も、医学生の間に興味を持つ診療科が変化しました。
そのため、面接で診療科を聞かれた際に、無理に一つに決める必要はないと思います。
ただし、
「まだ何も考えていません」
で終わらせるのは、少しもったいないです。
現時点で関心を持っている領域と、その理由を説明できるようにしておくと良いと思います。
例えば、
現時点では内科系を中心に考えていますが、救急や複数の診療科を経験した上で、自分の適性を判断したいと考えています。
というように、迷っている理由と、初期研修中に何を確認したいかまで話せれば、十分に前向きな回答になります。
診療科が決まっていないこと自体が問題なのではありません。
自分が何に興味を持ち、何に迷っているのかを説明できることが大切です。
10.面接は「正解を当てる試験」ではない
面接対策をしていると、
「面接官が喜びそうな答えは何だろう」
と考えたくなります。
しかし、面接には必ずしも一つの正解があるわけではありません。
同じ回答でも、ある病院では積極的だと評価され、別の病院では主張が強すぎると思われるかもしれません。
面接官との相性もあります。
だからといって、対策が無意味というわけではありません。
自分の経験や考えを、誤解なく伝わる形に整えることは必要です。
ただし、病院が求めていそうな人物像に、自分を無理やり合わせすぎる必要はないと思います。
面接のために別人格を作ると、質問を重ねられたときに必ず苦しくなります。
面接は病院が学生を選ぶ場ですが、学生側にとっても、その病院と自分が合うかを確認する場です。
11.マッチング対策は、情報管理がかなり重要
マッチングで大変なのは、試験そのものだけではありません。
- 病院探し
- 見学申し込み
- 見学
- 履歴書
- 成績証明書
- 卒業見込証明書
- 推薦状
- 健康診断書
- 筆記対策
- 小論文
- 面接対策
など、細かい作業が大量にあります。
さらに、病院ごとに応募開始日、締切、必要書類、試験日が異なります。
私は、病院ごとに情報を一覧で管理することをおすすめします。
管理しておきたい項目
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 病院名 | 正式名称 |
| 見学日 | 申し込み状況も記載 |
| 応募開始日 | Web応募開始日など |
| 応募締切日 | 必着か消印有効かも確認 |
| 必要書類 | 推薦状、健康診断書など |
| 試験日 | 集合時間も記載 |
| 試験内容 | 筆記、小論文、面接など |
| 志望度 | 第一志望群、併願群など |
| 提出状況 | 未着、準備中、提出済み |
特に注意したいのは、大学が発行する証明書類です。
申請してから受け取るまで時間がかかることがあります。
推薦状が必要な場合は、先生にお願いする時間も必要です。
締切直前に準備を始めると、試験勉強どころではなくなります。
マッチングは、受験勉強だけでなく事務処理能力も試されます。
12.マッチング期間は、思っている以上にメンタルを削られる
マッチング中は、周囲の動きが気になります。
- あの人は有名病院を受けるらしい
- 見学で先生に顔を覚えてもらったらしい
- 成績が良いから受かるだろう
- 自分には目立った実績がない
- 友人はもう志望先を決めている
周囲と比べ始めると、本当に終わりがありません。
面接後も、
「あの質問への答え方が悪かったかも」
「面接官の反応が薄かった」
「もっとアピールすれば良かった」
と考えてしまいます。
ただ、面接官の反応と結果は、必ずしも一致しません。
優しく話を聞いてもらえたから高評価とは限りませんし、圧迫気味だったから不合格とも限りません。
私は、マッチング期間中は、
自分でコントロールできることと、できないことを分ける
ことが重要だと思います。
自分でコントロールできること
- 病院を調べる
- 見学する
- 応募書類を整える
- 面接練習をする
- 筆記試験を勉強する
- 体調を整える
- 志望順位を考える
自分ではコントロールできないこと
- 他の受験生のレベル
- 面接官との相性
- その年の応募者数
- 病院が求めている人物像
- 病院側の順位
- マッチング結果
不安になると、新しい情報を探し続けたくなります。
しかし、ある程度準備が終わったら、検索を続けるより、寝た方が良いこともあります。
13.結局、マッチングには運もある
ここまで対策について書いてきましたが、マッチングは努力だけで決まるものではありません。
面接官との相性、受験者層、募集人数、出身大学のバランス、病院側がその年に採用したい人物像など、受験生側には分からない要素があります。
同じ経歴、同じ回答でも、受験年度や面接官が違えば、結果が変わる可能性があります。
これは、実際にマッチングを経験して強く感じました。
だから、不合格だったからといって、
医師としての能力や、人間性を否定されたわけではありません。
単純に、その年、その病院、その受験者の組み合わせで、順位が合わなかっただけかもしれません。
一方で、
「どうせ運だから、対策しても意味がない」
ということでもありません。
準備をしておくことで、運が向いてきたときに、そのチャンスをつかめる可能性は高くなります。
私の感覚では、マッチングは、
できる限り準備をして、最後の一部を運に任せる試験
でした。
14.志望順位は、本当に行きたい順に書く
マッチング登録の時期になると、不安になります。
「倍率が高いから、順位を下げた方がいいのでは?」
「手応えが良かった病院を上にした方が安全?」
「この病院を1位にしないと、病院側から下げられる?」
いろいろな噂が出てきます。
しかし、基本的には、自分が本当に行きたい順番に登録することが大切です。
周囲の噂や面接の手応えを理由に順位を変えると、マッチした後に後悔する可能性があります。
面接官から好意的な言葉をかけられても、それが順位を保証するわけではありません。
反対に、全く手応えがなかった病院から高く評価されている可能性もあります。
病院側の順位は見えません。だからこそ、自分側の順位は正直に決める。
最後は、自分が2年間働きたいと思える順番を、自分で決めるしかありません。
マッチングをガチって良かったか
結論から言うと、私はガチって良かったと思っています。
もちろん、準備期間はかなり大変でした。
見学先を調べ、メールを送り、病院へ行き、書類を準備し、面接練習をする。
その間にも、大学の実習や試験があります。
周囲の受験状況も気になります。
それでも、マッチングについて真剣に考えたことで、
- 自分が初期研修で何を学びたいのか
- どのような環境が自分に合うのか
- 将来どのような医師になりたいのか
- 何を優先し、何を妥協できるのか
を考える機会になりました。
結果として希望する病院にマッチできたことはもちろん嬉しかったですが、それ以上に、自分のキャリアについて本気で考えた経験そのものが残ったと思います。
これからマッチングを受ける人に伝えたいこと
マッチングをガチった私が、これから受験する医学生に伝えたいことは、主に三つです。
① 早めに動く
病院見学も書類準備も、後回しにすると国試対策と重なります。
最初から完璧に志望病院を決める必要はありません。
まずは、
- 気になる病院を調べる
- 見学可能時期を確認する
- 応募締切を一覧にする
だけでも、早めに始める価値があります。
② 自分の軸を持つ
有名だから、友人が受けるから、先輩が勧めているから。
それだけではなく、
自分は初期研修で何を経験したいのか
を考える必要があります。
給与、立地、救急、手技、専門科、雰囲気。
何を重視するかは人それぞれです。
大切なのは、他人の正解ではなく、自分の優先順位を決めることです。
③ 結果を、自分の価値と結びつけすぎない
マッチングには、努力で変えられる部分と、運で決まる部分があります。
私はかなり準備をしましたし、その努力は結果につながったと思います。
ただ、合格できたのは、努力だけではなく、病院との相性やタイミングにも恵まれたからです。
反対に、希望した病院にマッチしなかったとしても、それで医師としての将来が決まるわけではありません。
初期研修病院は重要です。
しかし、医師人生のすべてではありません。
まとめ
マッチングは、情報戦であり、準備の試験であり、自分自身を見つめる機会でもあります。
そして最後には、少し運も必要です。
私なりにまとめると、
準備できることは、できる限り準備する。
病院の名前だけでなく、自分に合う環境を考える。
最後は自分の志望順位を信じる。
結果がどうであっても、自分の価値とは切り離す。
これが、マッチング試験をガチった私の総論です。
